【07.04.10】多数派めざして 迫られる厚労省の原爆認定行政

沢田 昭二(名古屋大学名誉教授、愛知県原水協理事長)

 
厚生労働省は、原爆症認定訴訟で集団訴訟の前に7連敗、集団訴訟の地裁判決で5連敗し、すべての判決で厚労省の原爆症認定行政の転換が迫られているにもかかわらず、「認定基準は科学的だから変える必要はない」と控訴を続けています。今、厚労省をとり囲んで、控訴を取り下げよ、認定方法を抜本的に転換せよ、と座り込みと与野党議員による国会質問が続いて、原爆症認定行政をめぐる情勢は大きく動いています。

 原爆炸裂の瞬間にガンマ線や中性子線が放出されました。これが初期放射線ですが、爆心地から離れたところにはほとんど届かないのに遠距離被爆者や、爆発後に救援などで市内に入った入市被爆者に、脱毛、紫斑、嘔吐、下痢などの急性症状が生じています。これを初期放射線のみ考慮し残留放射線を無視する国の立場では説明できません。集団訴訟の中心争点が残留放射線による内部被曝(ひばく)です。

 残留放射線には原子雲からの放射性降下物からのものと、爆心地付近の中性子による誘導放射化物質から放出されるものがあります。残留放射線の影響は、これらの放射性物質から放出される放射線を体の外からあびる外部被曝よりも、口や鼻から体内に入った放射性物質による内部被曝のほうが深刻です。 

 裁判を通じて原爆被害の実相の解明が大きく前進し、残留放射能や内部被曝の影響で、原爆被害がこれまで以上に広い範囲に及び、半世紀以上にわたって被爆者を苦しませ続けていることが科学的にも明らかになりました。これは被爆者の救済という点でも核兵器廃絶の必要性を迫る意味でも重要です。

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