【12.02.07】地球温暖化 流氷からのメッセージ~3.11から未来は変わったといえるように―動物写真家・小原玲さん

報道カメラマンから転身―「人に大切にされる写真を撮りたい」

 
 私は、アメリカの通信社の報道カメラマンでした。
 天安門事件、湾岸戦争、ソマリア、フイリピンのクーデター、台湾の民主化運動など世界中を取材していました。
 世界中からカメラマンが集まり、「いい写真を取りたい」、歴史の最前線を見ているという高揚感、興奮でいっぱいでした。
 でも、ときどきソマリアで、痩せた子どもを探し回っている自分にはっと気づくのです。パレスチナで、イスラエル軍に家を壊された家族を、涙して取材しているのですが、ホテルに戻ると、「今日はいい仕事をした」と言ってビールを飲んでいる自分にはっとすることがありました。報道写真は、伝えているようで伝えられないことがはるかに多い、人の悲しみを伝える仕事がだんだんつらくなり、報道写真に無力感を感じました。
 なにか、違うものを撮ってみたいと、アザラシの赤ちゃんを撮影しに、カナダの流氷に出かけました。アザラシの赤ちゃんはとてもかわいらしく写真を撮ることに夢中になりました。
 東京の京王線で私の撮ったアザラシの写真をずっと見ていた女性が、定規を使って切り抜いて、自分の手帳に挟んでいました。うれしくなりました。人に大切にしてもらえるような写真を撮りたいと思うようになりました。

流氷からのメッセージ

 アザラシの赤ちゃんを撮って20年たちますが10年くらい前から、氷が少なかったり、風で流れて大陸側によってしまう、氷が薄くヘリコブターで着陸できなくなる。ずいぶん条件が悪くなってきました。
 地球温暖化ではないかと言いましたが、周りは、一時的なものかもしれないと聞く耳がありませんでした。
 それが変わったのは、ゴアさんの映画「不都合な真実」です。その後、地球温暖化とみなさんの共通の認識になってきました。
 流氷からメッセージを受け取ったような感じです。「流氷がおかしいということを知っているのは20年間撮り続けているお前しかいないぞ!」、と。
 いま、流氷でおこっていることを伝えるのが自分の責務だと感じていました。 子どもが自然を見て好きだと思う気持ち、それをそのまま大切にしてほしい、好きなことは大切にするのですね。エコバック、マイ箸を使って温暖化が止まるわけではない。でも、「それをしましょう」だけを子ともに押し付けている。もっと、大事なことは、これでいいのかということをずっと考え続けることだと思います。つい、大人は模範解答を作りたがるんですが・・。 環境問題を子どもたちが真剣に自分たちで考えるようになってほしい。大人の対応はとても大事です。

「直接話すのが一番」積極的に講演活動

 積極的に講演を行っています。一番大事にしていることは、直接伝えること。テレビを通して何度か話たことはありますが、伝え切れません。
「地球温暖化でアザラシの赤ちゃんは大変です」だけです。そのときに、私がどう感じたのか。経緯や感情を伝えたいのです。それには、直接話すのが一番です。
 子どもたちからは、考えもしなかったような質問が出されます。雪と氷だけの写真を見た後に「北極に花はさくのですか」という質問が出ます。お花が好きな子どもだと思いますが、咲くんですね。陸地のあるところに小さなコケのような植物が咲くのです。自分の好きなことから子どもは気づくのです。
 『沈黙の春』を書いた環境学者のレイチェル・カーソンは、晩年『センス・オブ・ワンダー』という本を最後に書いて亡くなったのですが、子どもが、不思議と思う感性が環境問題で一番大事なんだということを教えてくれています。僕も全く、同感です。
 この感性を大事にしていけば、子どもたちは必ず、もっとよい共生を考えてくれると思うのです。その感性がなくなってしまうと便利さばかり追いかけてしまう。自然をみて、不思議だなあ、面白いなあと思う好奇心が大事です。
 2月25日から一ヶ月ぐらいカナダのセントローレンス湾にアザラシの取材にいってきます。また、皆さんにお伝えできる機会があれば嬉しいです。

3・11をターニングポイントに

 自然が何を望んでいるのかもっと耳を傾けましょう。都会の隅に小さなスミレが咲いていますね。そこから興味を持って、どんな小さい自然でも必ずつながっていくのです。アザラシだけが大自然ではありません。
 原発事故後の対策は、国の無策さにすごく腹が立ちます。経済の成長には必要な時期があったかもしれませんが、その価値観を続けていいのか、少なくとも収束さえしていない、大きなリスクがあるものが存在していることを考えたら、答えは自明です。
 3月11日が一つのターニングポイントになって一つの時代が変わったというようにしていかないといけないと思います。3・11があって、未来が変わったというように。

 ☆小原玲さん プロフィール☆

1961年東京生まれ、米国写真通信社の報道写真家として、天安門事件、湾岸戦争、ソマリアの飢餓などを取材。小学校国語教科書『こくご1下』(教育出版)にはシロクマの写真物語が掲載。著書、写真集『流氷の伝言-アザラシの赤ちゃんが教える地球温暖化』『ほたるの伝言』(教育出版)など多数。『1980アイコ16歳』で文藝賞を受賞した堀田あけみさんとの間に3人の子ども。名古屋市千種区在住。

  小原玲さんブログ
  http://reiohara.cocolog-nifty.com/

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