【12.11.10】尖閣諸島問題―乗り越える知恵、理性が必要  定形衛さん(名大法学部教授)

 
 尖閣列島問題をどう考えるのか。今日の日中関係を再び、どう構築していくのか。名古屋大学法学部教授の定形衛さんに革新・愛知の会の事所にきていただき、お話を伺いました。(聞き手・岩中美保子 撮影・加藤平雄)

定形 衛 さん
名古屋大学法学部教授。専攻は国際政治史。1953年群馬県生まれ。神戸大学大学院博士課程満期退学後、大分大学助教授、金沢大学教授を経て1998年から現職に。

尖閣諸島問題―日本政府は国際社会に理解をもとめる説明を

 今年は、日中国交回復40年、尖閣列島問題で大きく揺れ、関係が悪くなっています。今後の日中関係を再び、どう構築していくのか大変重要だと思います。
 1972年9月29日、当時の両国首相が共同声明に調印し国交が回復、その後1978年には日中平和友好条約を締結したわけです。72年当時、田中角栄首相は、自民党内部から尖閣列島問題をはっきりしてこいと言われ、尖閣のことを交渉で切り出すと、周恩来首相は「尖閣諸島については、今回は話し合いたくない。今は、これを話すのは良くない。石油がでるから、これが問題になった。」と避け、日本側もそれ以上に踏み込みませんでした。日中関係の正常化を優先するあまり尖閣列島が日本の領土であるということを主張することができず、それが今日まで尖閣問題が続いてきたのです。
 日本は1895年日清戦争の下関条約締結前の1月、再三にわたる現地調査の結果、ここが無人島であるのみならず、清国の支配が及んでいる痕跡がないことを慎重確認の上、現地に標杭を建設する旨の閣議決定を行なって正式にわが国の領土に編入することとしました。その後、ほぼ70年にわたって中国からは尖閣についての領土問題を言って来ることはありませんでした。
 しかし、今年になって、東京都による購入の話や国有化で中国側の態度が硬直したんですね。9月に、ウラジオストックで行われたAPECの会議で胡錦濤主席は、野田首相に会い、「国有化は違法だ。日本は事態の重要性を認識して間違った決定をしないでほしい」旨伝えたのですが、2日後に尖閣の国有化が閣議決定されました。中国としては面子がつぶされた格好となり、その後激しい抗議が続くようになりました。

侵略戦争に無反省の日本

問題なのは野田首相が「領土問題は存在しない」と言うのみで尖閣についての日本の主張を中国や国際社会に説明することをしないことです。領土問題をめぐる論争は今日、明確に生まれてきているのですから説明が求められているはずです。9月27日、ニューヨークでの国連総会で中国の楊外相が演説し、日本が尖閣を「窃取した」、「世界の反フアシズム戦争の勝利を全面的に否定し、戦後秩序および国連憲章に深刻な挑戦をもたらしている」と述べて日本を強く批判、しかし、日本政府はこうした非難に明確な反論できていないのです。
 ところで、今回の反日デモでは2005年の小泉首相の靖国参拝に対するデモの時とは大きく違い、毛沢東の写真がデモで頻繁に登場しています。今日、急速に発展した中国が抱えている国内の経済格差、腐敗、失業問題などに民衆は不満をもっており、それが尖閣を中国固有の領土と主張する反日デモへとすりかえられている側面が強いといわれています。「毛沢東の時代は貧しいながらも平等であった」という意味で現胡錦濤体制下での社会格差への批判が反日デモという形をとった面も重要です。

なぜ、反日デモは繰り返されるのか

 日本政府が歴史問題、戦争問題、教科書問題、靖国問題などこうした問題に十分に中国を納得させるだけの答えをしてこなかったことが「反日」のシンボルとして尖閣の問題が使われてしまったという事だと思います。日本の外交は非常に発信力がない。盗人呼ばわりされても「領土問題はない」という一点張りで国際社会に説明する、訴えるということがないのです。
 また、これからの中国には、大国としての強いリーダーシップが求められています。内政問題を外交にそらすようなことではなく、アジアの大国として近隣諸国との友好外交が真に求められていると思います。日本も同様です。現政権に対しての世界からの日本への信頼度はきわめて低くなっています。アジアの平和にむけた積極的な外交的な発信力が日本には強く求められているのです。

日中双方は理性的な対応を

 中国が日本にとって永遠の隣人であるのは事実で、経済、政治安全保障問題を考えたときに、尖閣諸島問題で断絶するということは非合理であり、理性的な外交ではないと思います。
 長年アジア外交に従事し、日中間の外交に携わって来られた元中国大使の中江要介さんが、雑誌『世界』(本年11月号)に次のように書いておられます。「正常化は両国の心ある指導者、実務者の血のにじむような努力と苦心のうえに成し遂げられた。こうした歴史を思い立つときに昨今の、政治指導者の言動はあまりにも安易で軽薄である。冷静に話しをしようと呼びかけることのできる度量のある指導者の不在が、今回の騒動を収拾できなくしている最も大きな要因である。多くの犠牲者と献身のうえにやっと手にした平和が矜持も歴史観もない口先だけの似非政治家によって脅かされてはならない」。そのとおりですね。

時代を見据える目を

 今日のアジア、グローバル時代のアジアをリードしていく日本、中国には時代を的確に捉える目、時代をどういう方向性にすすませるのかを提示していく義務があります。私たちが、正しい方向を示していかないと、とんでもない方向、冷戦期の対立に後戻りするような方向にいってしまいます。社会科学を学ぶものは、時代のあり様を的確に見抜き、それを社会に示すことが大事です。私も「革新・愛知の会」の活動にお役に立てればと思います

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