【16.11.10】山形 英郎さん[名古屋大学教授]――集団的自衛権行使は「居直りの論理」憲法9条の精神に立ち返ること

集団的自衛権行使は「居直りの論理」憲法9条の精神に立ち返ること

 
集団的自衛権の問題、自民党改憲案の問題点を国際法や国連憲章などからみてどうとらえるのかなど研究室におたずねし、お話を聞きました。(聞き手 岩中美保子・撮影 加藤平雄)

山形 英郎 さん

1959年京都府生まれ 名古屋大学大学院国際開発研究科教授 京都大学大学院法学研究科卒、岡山商科大学、立命館大学を得て現職。国際法専攻。

国際法上の自衛権とは

国連憲章は、戦争だけでなくあらゆる武力の行使、武力による威嚇を広範囲に禁止しています。例外として国連憲章51条に「自衛権」が定められています。 第一に武力攻撃の発生という要件、第二に安全保障理事会が必要な措置を執るまでの暫定的な措置であるという要件、第三に安全保障理事会へ報告をしなければならないという要件を満たす必要があり、きわめて

限定的で暫定的な権利です。さらに必要性及び均衡性も満たさなければなりません。 
こうした要件は個別的自衛権と集団的自衛権に共通の要件です。

国連集団的安全保障体制と集団的自衛権とは相容れない

集団安全保障体制は個別国家の戦争行為抑制のため国連の機関が決定し国際的に組織された軍隊で強制措置をとるものです。同盟条約を締結し自国の安全を保障しようとする勢力均衡政策を克服するために、集団安全保障体制が国際連合で構築をされました。
 自衛権は乱用の危険があります。武力攻撃をうけた事実を判断するのは被害国であり第三者の評価を得ていませんので客観的な評価にはなりません。
 国際司法裁判所が明らかにしていますが、集団的自衛権は基本的に他国防衛です。集団的自衛権は、同盟条約の法的基礎であり、勢力均衡政策への先祖返りを目指すもので集団安全保障とはまったく相容れないものです。

根本に日米安保条約

なぜ、安倍政権は集団的自衛権行使容認に踏み込んだのか。日米安保条約の存在が根本にあるからです。日本国はアメリカ合衆国の軍隊に基地を提供しています。基地提供自体、集団的自衛権を根拠に説明せざるをえないのです。しかし、従来の政府見解は「集団的自衛権は有してはいるが行使はしない」と言ってきました。アメリカ合衆国の基地を認めることと集団的自衛権行使を否定することは明らかに矛盾です。その矛盾を解消するために、そして日米安全保障条約体制を維持するために日本国も集団的自衛権を認めないといけないというのが今回の安倍総理の選択です。
 まさに「居直りの論理」です。
 当然もう一つの選択肢もあるわけで日米安全保障条約を見直し、憲法第9条の主旨にそった方向性が求められなければならないと思います。
 日本国憲法は九条の2項で戦力を否定しているように自衛権もすべて否定していると読むのが自然です。

自衛権の乱用

私が懸念しているのは国際法上の自衛権が国家実行において乱用され、学説においても支持されはじめていることです。9・11のテロ以降、国家がテロ組織に対して自衛権を行使していいという考え方が出てきました。他国からの武力攻撃を中止させるための権利である自衛権が、従来の考え方から大きくかわろうとしています。
 テロが国際社会に対するおおきな脅威となっているのは事実です。脅威に対して国際社会はどのように対処していくのかが、われわれに問われています。テロは国家や国際社会に不満があるからです。暴力で対抗したらまさに憎しみが憎しみを生むことになるだけです。平和的な協力関係を構築していくために対話が重要です。
 憲法で規定している人権や戦争放棄の条項など私たちは長い歴史のなかで勝ち取ってきています。第一次、第二次世界大戦をはじめ多くの戦争を経験して平和を維持しようと宣言したわけです。
 憲法、国連も多くの方々の犠牲の上に成り立っていることをしっかりと認識する必要があります。

自民党の改憲草案

自民党改憲案の安全保障第九条の2第3項は、国際社会の平和と安全を維持するために国際的に協調して行われる活動に日本の「国防軍」が参加できるとしています。
 しかし「国際社会」の定義は曖昧です。国連安全保障理事会の強制措置ならいざ知らず、いわゆる多国籍軍による軍事行動にも参加する可能性が開かれます。例えば、「国際社会」の名の下に2003年イラクに対する軍事行動が行われました。国連の許可を受けていないにもかかわらず、一部の国家による武力行使があたかも国際社会の平和活動のように主張されたのです。安易に乗っていくことは危険で、もしかしたら侵略に加担していくことになるかもしれません。
 国際政治学では「安全保障のジレンマ」ということをいわれますが、今の日本の状況はまさにこのジレンマに陥っています。自国の防衛のために軍事力を増強すればするほど相手方に対する脅威になって相手国はさらに軍事力を強めてきます。
 日本は中国、北朝鮮の行動に対して同じように軍事力を増強しようとしていますが双方の緊張関係を高めるだけであって紛争解決することにはならないだろうと思います。 憲法9条の精神に立ち返り、いかなる武力紛争にも巻き込まれない決意と行動が今こそ必要です。

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