【18.06.10】上井靖さん(名古屋市立八王子中学校元校長)

自分で考え判断することが「生きる力」につながる 

 
上井 靖 さん

1958年生まれ。名古屋市立八王子中学校元校長。現在、教職員研修や学習支援をする団体・民間の活動をサポートのため起業。NPO日本ファシリテーション協会元理事。

前川喜平さんの話を聞いてほしい!

 前川さんを招いたことの理由を問い詰める質問状のメールが来たときに、文科省がこんな文書を書くの?「大丈夫?文科省?」と思いました。
 3年ほど前の全国中学校校長会の全国研究大会で、「正解がない社会で道を切り開く人を育てるには、学校が多様な意見を聞き、安心して話し合える場づくりが大切」という前川さんのお話を聞いて共感するものがありました。
 
 八王子中学への講演を依頼したのは、昨年7月23日、大阪市立大空小学校のドキュメント映画「みんなの学校」の全国大会です。天下り問題などの騒動で、次の日は国会参考人出席という中でした。「出会い系」などということが言われていましたが、前川さんはまったく気にせず、その姿は、だれにでもフランクで、大変楽しい内容でした。
 子どもたち、保護者、地域の方々、教職員に前川さんの人柄、学びのこと、マイノリティのこと、夜間中学のことを絶対に聞いてほしくて講演を依頼しました。

自分で考え判断することが「生きる力」に

 今年2月16日の公開授業は、インタビュー形式で私が前川さんに「今の気分は?」とたずねると「たくさんの中学生の皆さんの前で、うわーい(上井)という嬉しい気分です」と言うのです(笑)。それで盛り上がり、不登校の経験や夜間中学校の活動にふれながら、学ぶ大切さについて語っていただきました。
 前川さんを呼ぶことについては、教職員も不安があったと思いますが、「私が全部、責任もちます。」とはっきり言いました。前川さんには授業を見てもらい、特別支援教室の子どもたちと一緒にランチを食べて、講演会終了後は、教職員のワークショップ形式での話し合いにまで参加してもらいました。
 報道後、半月に200件ほどの電話がありましたが、その対応に、職員が最後までよく聴きました。クレームの背景には何かある、その人たちを恨むとか、排除するというのではなくてというスタンスで対応しました。
 地域の人からのクレームはほとんどありませんでした。
 マスコミの取材がすごかったので、全校集会で生徒に「帰りにマスコミに何か聞かれるかもしれないけど、自分の考えを正盛堂々と言えばいいよ」と話しました。自分で考え判断することが「生きる力」につながると考えたからです。
 一番学びを得たのは、八王子中学校の生徒と教職員です。まさしく主権者教育になったと思います。

正解主義だけではダメ

 私が14年位前から学び活用しているファシリテーション(知的創造活動を促進するはたらきかけ)のミッションは自律分散型の社会です。ピラミッド型ではなく、それぞれが自律してネットワークで有機的につながりましょうということです。
 アクティブラーニングは、一方的に聞くだけでなく、自らが「主体的で対話的で深い学び」の視点で改善しましょうというものです。この主体的で対話的で深い学びには、ファシリテーションを基盤とした小グループでの話し合いの場が欠かせません。しかし、今の高校入試のための成績を気にすることが優先されてしまい、受動的な授業がまだまだ多く存在します。理念と現実がまだまだねじれていると言えます。
 正解があって、そこに向かって試験勉強をすればいい成績が取れるかもしれない、しかし、正解主義だけでは、未来を創ることができるでしょうか。
 大きな問題にぶちあたり、それを何とかして解決していこうとする。さらに、自分一人でなくてだれかと協働して解決していこうとする。ここが大切だと思います。
 こうしたことから得られる力が「生きる力」です。「生きる力」は未来でさらに必要な力です。
 主権者教育、自分の考えをもつこと、他の人の考えも聴き、考えを更新することが大事だと思います。

憲法の理念に基づく教育

 憲法は国民がつくったもの、法律は憲法に基づいて国がつくっています。憲法を大事にすること、特に、基本的人権の尊重は重要な点です。個人の尊厳です。一人ひとりが国をつくっています。八王子中学校があってあなた方がいるのではない。その意味でも自分の生活と結びつけて考えれるといいなあと思います。

自分らしく生きていけるために

 大事なのは、「聴く力」です。仲良し同士の「会話」ではなく、勝ち負けを決める「討論」でもない、「対話」が必要です。「対話」は、自分にある判断を横に置いて聴く、すごく難しいことです。相手の話を聴く中で、「自分はどうなんだ?」と揺さぶられる。この「対話」の場はとっても必要です。だれもが一人ひとり違います。結論は出ない。対話を十分やっていく。効率を求めたりしては、対話は多分うまくいきません。
 今回定年退職で、教育関係機関での再就職という選択肢はありましたが、自分らしく働きたいことを優先して起業しました。一人ひとりが自分らしく生きていけるためにお役に立ちたいです。

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