【19.03.10】高橋博子さん(名大大学院法学研究科研究員)―原発推進のねらい―事実を知り繋がって!

過小評価される内部被ばくの影響

 
高橋 博子 さん

名古屋大学大学院法学研究科研究委員。アメリカ史専攻。日本平和学会会理事。広島平和記念資料館資料調査研究会委員、第五福竜丸平和協会専門委員。

子どもに大きな影響が

 私の専門はアメリカ史、冷戦時代の核問題の研究です。戦争を好む人たちが緊張をもたらすことに危機感をもっていました。1950年代を中心にした世界の核実験は、とくに子どもに大きな影響があるとわかっていました。  
 2011年3月、東京の小金井市に住んでいましたが、報道以上にとんでもない事態が起こっていることを知り、3月15日に当時1才6ヶ月の子どもと大阪の実家に避難をしました。3月15日に水素爆発、その後、三鷹市の水道汚染が検出され、東京都の水道は赤ちゃんには使えなくなりました。

放射性降下物データが公表されない

 ヒロシマナガサキの放射性降下物の問題、「黒い雨」残留放射性、内部被爆の問題をずっと研究し原爆症認定集団訴訟へも意見書もだしました。核実験による放射性降下物の問題を研究していましたので広い範囲で、局所的には高い線量がでると予測しましたが政府が全然公表しませんでした。
 ドイツ、ノルウエーが放射性降下物がどの方向に流れているのか公表していましたが、2011年の夏にはそのサイト自体が閉じられたり、報道されなくなリ危機感をもちました。

年間20ミリシーベルト

 1946年にできたアメリカのNCRP(全米放射線防護委員会)はマンハッタン計画にたずさわった核開発、原発推進の科学者が多くいる委員会です。
 その後、1950年にICRP(国際放射線防護委員会)が発足します。イギリスのチャリティ団体と登録されていますが、被災者のための団体ではありません。ここで作成された防護基準がずっと使われてきました。
 「ICRP1990」の勧告に基づいて、年間1ミリシーベルトを線量限度として日本の国内法にとり入れられていますICRP2007年勧告では事故が発生したとき「緊急時」住民に対して20ミリ~100ミリシーベルトを設定、「復旧期」では「1~20ミリシーベルト」を設定しましたが原発事故前の2011年1月に国内法にとりいれるための提言が「文部科学省放射線審議会基本部会」で行われています。
 その委員会が大いに問題です。「放射線審議会基本部会」の委員名簿には、利害関係者の電力会社、東京電力の副社長、事業部長がはいっています。その委員でもあった小佐古内閣官房参与が、原発の事故の処理にあたって専門家として、年20ミリシーベルトを子どもたちに適応するなんてとんでもないと記者会見し、2011年4月30日に涙を流して辞任をしました。小佐古氏は原爆症認定集団訴訟では、国側の専門家で放射線の影響はきわめて低いと過小評価をする人でさえ、おかしいと抗議したのです。

原発推進の真のねらい

日本政府は2016年4月1日、「核兵器であっても、仮にそのような限度にとどまるものがあるとすれば、それを保有することは、必ずしも憲法の禁止するところではない」と閣議を踏まえて答弁しました。この立場から核兵器には反対する素振りをみせるが、核保有能力を維持し、そのために原子力発電は重要という核に対する異様な執着です。
 2011年9月7日に読売新聞が社説で、プルトニウム利用が認められているから潜在的核抑止力が働くので、原発の推進はやめるべきではない、と本音をはっきり言っています。
 アメリカ政府は、広島・長崎は、爆風、熱しゃによる初期放射線の影響だけだというロジックを強力に推進しました。放射線は、空中高く爆発したら、成層圏までいって消えてなくなるといっています。
 しかし、核兵器は生物化学兵器、毒ガス以上に非人道的兵器です。国際ハーグ陸戦条約に違反します。残留放射線を認めないよう押さえ込み、子どもたちへの影響を今もずっと隠し続けています。
 被害データーは軍事機密で市民社会の中に共有されません。放射性被ばくは1950年代、核推進のアメリカABCC(原爆傷害調査委員会)のデータでも子どもたちに影響があると公表されています。翻訳はされていません。

風評被害ではなく実害

 内部被ばくの影響について十分、共有されるべきです。
 できるだけ避けることができるようにするべきで、放射線の影響はないほうがいいと思います。しかし、家族の問題などいろんな問題があり複雑です。避難をして区域以外で暮らしている人の判断を尊重すべきだと思います。住み続ける人に対しても影響を少なくすることが必要です。
 風評被害といわれますが、これは実害です。消費者としてできるだけ害のないものを、生産者としては安全なものを提供したい。この当たり前のことを、原発事故は壊してしまいました。両方とも被害者です。ところが被害をもたらした国自らが風評被害を流し、影響がないかのような宣伝をしています。これは二重三重の加害的行為です。
 原発事故の被害について、国や電力会社に責任を求めることを「風評被害だ」と切り捨てるのは明らかに問題です。原発事故の影響をなくすのではなく、なかったことにする工作行為であると思います。

市民が繋がって

様々な活動に自信をもってほしい。市民の活動がなかったらもっとたいへん。地道に、分断されることなく繋がっていきましょう。核抑止論には、放射線被害を受けた人の人生はでてきません。核抑止論というのが本当の核戦争を知らない発想です。一人一人に起こることに想像力を。核兵器禁止条約
が重要になってきています。核兵器の威力で脅して世界を動かすのではなく、人々の心を動かし核廃絶を実現していかないといけないと思います。

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