【11.02.10】連続憲法講座 第8回  地域主権改革・道州制で日本の未来はひらけるか 岡田知弘さん(京都大学教授)

はじめに

 
 国や地方自治体が誰のためにあるべきかが鋭く問われる時代。“ワーキング・プア”“無縁社会”。とりわけ、憲法25条や、住民の暮らしの組織であり、「住民の福祉の増進を図ること」(地方自治法)を基本目的とした地方自治体のあり方が、「地域主権改革」によって、変質されようとしている。
 とりわけ、橋下大阪府知事、河村名古屋市長の「改革」論は、日本の地方自治、憲法体制に大きく影響を与えるもの(橋下→地域主権戦略会議議員、両者→総務省顧問)

財界主導の「グローバル国家」論に基づく自公政権の「構造改革」路線の破綻

 経済のグローバル化による産業空洞化と農林漁業の後退若年層を中心にした高失業、ワーキングプアの広がり、史上最高水準の生活保護世帯数、13年連続3万人超の自殺者、ほぼ同数の「無縁死」、住み続けることのできない地域が広がる。(年金がおろせない、生鮮品が買えない、病院に行けない、公共交通がない地域の拡大、国土の荒廃と災害の多発)

民主党の「地域主権」論とは?

 国の役割を外交・防衛等に限定、法令による義務付け・枠付けの大幅見直し、国の出先機関の原則廃止、都道府県事業の3分の2を基礎自治体に移譲、市町村合併の数値目標を削除。さらに道州制導入もありえるとする国と地方の協議機関の設置、一括交付金の導入をすすめようとしている。

国と地方の「役割分担」論を前提に、団体自治を重視。住民自治は軽視。
本来、現行憲法においては、国民が国と地方自治体の主権者であり、「地域」という無限定な存在ではない。「地域」という曖昧な広がりは、いつでも「30万人基礎自治体300」、「道州制」に置き換えられる。

財界による道州制導入の圧力と財界・米国にすり寄る菅内閣

 改憲論者が主要ポストを握る、衆議院比例定数削減、参議院憲法審査会の設置を自民と民主が合意など憲法改悪への動きが再始動、法人税引き下げ・消費税引き上げ、TPP(環太平洋経済連携協定)参加推進姿勢へ、さらに民間化、市場化推進への動きがすすめられようとしている。

住民一人一人が大切にされる地域、日本を創造する動き

 第29次地方制度調査会で合併推進政策に「一区切り」をつける答申や道州制導入に対する全国町村会の反対決議に代表される地方団体の反発など合併政策・道州制論への批判が強まる。
 「小さくても輝く自治体フォーラム」運動の広がり。「小さいからこそ輝く自治体」の実践が生まれている。
 「一人ひとりが輝く地域づくり」を目的に、地域内経済循環と実践的住民自治による村づくり→高齢者を大切にした高福祉・低負担の長野県栄村の取り組み、「下駄ばきヘルパー制度」導入(住民がヘルパー資格を取る。村民二千五百人の中で二百人が有資格者)と、PPK運動(ピンピンコロリ)で、一人当たり老人医療費は県平均下回り、国保料・介護保険基準額は、県内最低水準に。
 宮崎県綾町、徳島県上勝町、高知県馬路村、岩手県紫波町などの有機農業、森林エネルギーの活用、地球環境問題への地域からの取り組みなど

おわりにー新たな福祉国家形成に向けた社会的運動の必然性と展望

(1)新自由主義的グローバリズムの中で、一部大企業の短期的な「経済性」・効率性を第一にするのか、あるいは自然との共生による一人ひとりの人生を大切にした持続可能な地域・日本をつくかの対立が燎原の火のように広がる。

(2)人間の命、基本的人権を、地域の個性に合わせて守り、発展させる真の地方自治運動が求められる時代。

(3)人間の命と暮らしの危機は、医療、保健、教育、産業、雇用、環境、国土保全などあらゆる領域にわたり、地域ではそれが相互に結合している。それらの問題を解決すべき地方自治体の役割が高まり、主権者である住民の自治力が問われている。

(4)地方自治体、国家のあり方を決めるのは、主権者としての地域住民自身が決め、実践する(地域住民主権)新たな福祉国家、地方自治像の提案活動→住民が一人ひとり輝く平和な国に。

(5)現代とは、人間らしい地域生活を主体的に再構築していくための試練の時代地域、日本、地球の持続的発展のための創造的運動を。

(6)そのためにも、地域を知り、科学的に将来を見通せる学習・調査・研究・政策活動が必要不可欠である。

 参加者は68名でした。

このページをシェア