【21.05.10】水谷陽子さん(弁護士)――憲法は尊厳を求めてたたかう人の希望

当事者の思いに寄り添って

 
水谷 陽子さん

1989年生まれ。三重県出身。
弁護士。弁護士法人名古屋法律事務所所属。
「結婚の自由をすべての人に」訴訟(いわゆる同性婚訴訟)弁護団。明日の自由を守る若手弁護士の会。「憲法とくらしを政治にいかす 改憲NO!あいち総がかり行動実行委員会事務局次長。

三重県・四日市市に生まれて

 弁護士になろうと思ったきっかけの一つは、自分が四日市生まれということがあります。大学に入ってから、四日市ぜんそくついて学びショックを受けました。私が当たり前に享受していた環境ー四日市コンビナートを毎日見ながらー健康に暮らしてきた生活は、公害のあった当時、一番苦しんでいた当事者の人々が、命と人生をかけてたたかってきたおかげということを知りました。
 原発事故被害者賠償弁護団や同性婚人権救済弁護団などで活動しましたが、いつも「尊厳を実現しようとたたかう人々を孤立させたくない、あなたは一人じゃないということを伝えたい」と思ってきました。弁護士としてそういう人を支えて寄り添う側でいたいです。

バックラッシュに潰されない連帯

 この間、セクシャルマイノリティーの方に生じる人権課題に社会が目を向けるようになり、教育現場での対応や自治体のパートナーシップ制度が広がったりと、前進してきています。これは根強い差別や偏見の中で声を上げ続けてきた当事者の方々の人生をかけたたたかいの成果でもあります。しかし、一方で激しいバックラッシュも起きています。最近では足立区議が「足立区が滅びる」発言をしたり、三重県議が同性カップルの住所を無断で公開しました。SNSなどには、根拠のないバッシングや攻撃もあふれています。このバックラッシュを乗り越える連帯が必要です。そのためには、まずセクシャルマイノリティーは特殊な人々ではなく、ありのままの普通の人々であることを知ってもらいたいです。同時にその普通の人々に日常的にむけられるハラスメントがどれだけ過酷かも知ってほしいです。相談できる窓口もほとんどなく、家庭、学校、地域、職場で孤立しがちな背景から、貧困や精神的疾患を抱えて苦しんでいる人もおられます。そして「特権を求めている」と誤解されている人もいますが、そうでなく、同じ人間として対等に尊厳を認めてほしいということなのです。ぜひ、多くの人に人権や平等という点から、一緒に考えてほしいと思います。

札幌地裁での画期的判決

 3月17日、札幌地裁は「同性婚を認めないのは違憲」という画期的判決を出しました。この「結婚の自由をすべての人に」訴訟は全国5か所でたたかわれており、私は東京と愛知の弁護団を兼務しています。訴訟では、同性婚を認めないのは違憲であり、国がその状態を放置しているとして原告らは賠償を求めています。札幌判決では、国の賠償責任までは認めらませんでしたが、憲法第14条のー法の下の平等が侵害されているとして違憲判決が出されました。。国は、訴訟手続きにおいて、不誠実な態度をとり、偏見や差別を新たに強固にしかねない主張を重ねてきましたが、この判決は国の誤りを正すものでした。「憲法は尊厳を守るためにたたかう人々を支えてくれるんだ」という希望を取り戻すものになりました。

憲法24条は同性婚を禁止しているか

 そもそも婚姻に関する憲法24条の規定には「両性」と書かれているから、「憲法は同性婚を禁止している」と勘違いしている人もいます。でも、そんなことは国ですら国会でも裁判でも言っていません。憲法は市民の人権を守るために国に色々な制約を課す性質です。その大本の考えからしても「禁止」はあり得ません。(札幌判決は、「憲法24条は同性婚を保障も禁止もしていない」という立場です。)

温かい励ましを力に

 昨年11月、あいち総がかり行動が結成したときに事務局次長に就任しました。この会が「憲法をくらしと政治にいかす」と掲げていることをとても気に入っています。憲法は生活と政治に直結しています。でも、そのことを多くの人が気づかずにいます。憲法が遠い存在と思っている人に身近に感じてもらうのがすごく大事です。生活するうえで困ったこと、許せないことに対して、解決するためのツールが憲法なんだという、生活とのつながりを知ってほしいです。声を上げる人を支えるのが憲法の役割です。もし憲法が自民党の改憲草案のようになってしまったら、むしろ市民の声をふさぐものになってしまいます。市民の声を支える憲法を守っていきたいです。

真面目なことも明るく、楽しく、伝えたい

 まじめなことも、楽しく、明るく、相手に伝わる言葉で発信することを大切にしています。ブラックな働き方をしている人、生活に困っている人、差別に苦しんでいる人、それぞれの困難に向き合う形でメッセージを伝えていきたいです。相手の背景をくみ取って言葉を伝える、そうして声を上げる仲間どうしでも、お互いの尊厳を尊重しあう、大事なのはコミュニケーションだと心がけています。真面目に、楽しく、色んな人を誘いたくなるような運動にしていきたいですね。

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